麻疹は感染力が強く、発症率も高く、不顕性感染はほとんどなく、軽く済むということもない、小児にとってもっとも
重視されるべき感染症です。.
麻疹はもちろん全世界で発生していますが、麻疹ワクチン接種率が高い地域での発生きわめて
少なくなっています。
アメリカでは麻疹生ワクチンの導入以降、麻疹患者の発生は減少の一途をたどり、1997年にはたまたま麻疹の
潜伏期に米国に入国ないし帰国して、発病した輸入例を除く国内発生例は81例で、麻疹根絶も現実味を帯びて
きているとされています。
アメリカは自由の国といわれますが、それだけにリスク管理は厳しく、幼稚園や小学校は予防接種をしていないと
入れません。私の娘が留学した際も、過去のワクチン接種歴、主要感染症の罹患歴を細かく書かされました。
もちろん英語で証明書を書かないといけなかったのです。ですからアメリカの麻疹患者は年に100人程度。
わが国の、ある県での発生より少ないのです。
それは、わが国での麻疹生ワクチンの接種率が低迷しているためで、麻疹患者は年間数千例、
死亡者も年間数十例程度で推移しています。
厚生労働省の統計によると、01年は11月までに19人がはしかで亡くなり、00年は18人、99年は29人、
直接ではなく、肺炎などを併発したケースも含めると、死亡者は年間80人程度とみられています。
こんなにはしかが猛威を振るう先進国は、日本くらいといわれ、 ある意味では、SARSなど
較べものにならないのですが、ずっとこうした状態が続いているために、
その怖さを認識できなくなったいると言えます。
たしかに、多くの方がワクチンを受けていますから、20年ほど前に較べ身近で大きな流行は見られなく
なりましたが、各地で小流行は続いているのです。
麻疹の抗体を持っていない人の割合が5%以上になると、集団感染が起きる危険性が高まるとされています。
子供の側の問題だけではなく、大人、特に教師や医療関係者が感染源になることもあります。
この点、アメリカでは、教師・医師など、多数の子供・患者に接し、感染源になった場合に危険が高い
職種については、大人もワクチン接種する義務があります。このようなワクチン接種は、
「個人(自分自身)のため」ではなく、「社会(公共の福祉)のため」に行われているのです。
日本には、予防接種に関してのそうした理念は乏しく、そのような規制はありません。
いずれにせよ、日本での接種率は、様々な要因が挙げられていますが、残念ながら他の先進国、
いや、一部開発途上国より低く、麻疹輸出国とさえ酷評されているのです。
国内の麻疹の発生数について http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
麻疹は、この5年間、急増している http://idsc.nih.go.jp/douko/2001d/01_g2/23douko.html
麻疹は、疾患そのものも高熱、激しい咳、発疹等重篤な疾患ですが合併症、続発症は必須とも言え、脱水症、
気管支炎、肺炎、中耳炎、血小板減少症、DIC、脳炎と多彩で、脳炎は麻疹患者1,000〜2,000例に1例くらいの
頻度で発症し、死亡率は約10%、約65%には後遺症が残るとされています。さらに遅発性合併症として、
麻疹ウイルス罹患後約10年を経て発症するSSPEも知られています。(麻疹ウイルスの持続感染によると考えられ
ている亜急性硬化性全脳炎、麻疹患者の100万例に5〜10例おこると言われています。進行性の神経症状、痴呆
症状を示し、最終的には死に至る予後不良の疾患ですが、米国では麻疹ワクチンの普及により激減した)
麻疹のその予防に関しては、麻疹患者と接触3日以内にγグロブリンを注射したり、麻疹患者と接触後、直ちに
麻疹ワクチンを接種すれば発症を予防する、あるいは症状を軽減できるとされていますが、必ずしも接触に
気づくわけではありませんし、タイミング良く接種できるとは限りません。
したがって、麻疹予防は生ワクチン接種による方法が基本となるわけです。
麻しんの予防接種は予防接種法に基づく定期接種であり、経済的にも負担が少ないものです(ただし自治体に
よって違いがあり、愛媛県では、宇和島市のお隣、吉田町のみ自己負担があります(-_-)。
生後12か月以上90か月未満の者が対象ですが、標準的な接種年齢は、生後12か月以上24か月以下です。
乳児は母親からの移行抗体のために、生後6か月未満ではほとんど麻しん罹患はなく、ワクチンもつきません。
それ以後はだんだんと罹患するようになります。
生後12か月未満であっても近隣で流行が見られたら任意で緊急にワクチンを接種してもさしつかえありませんが、
残存する抗体のためにワクチンの効果が十分にあがらないこともあるので、12か月以降に再び接種を行う方がよ
いとされています。ちなみに、生後90か月以上の者であっても、免疫がないと判定される場合は、いずれの年齢で
も任意で接種してさしつかえありません。ただし、緊急接種とともに、これは自費になります。
免疫のある者に接種しても副反応が増強することはありません。
ということで、現在麻疹ゼロを目指した運動が展開されています。
日本医師会のキャンペーン http://www.med.or.jp/kansen/mashin.html
感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/others/topics/measles/measles_top.html
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/shingi/kousei.html#kansen-polio
hashika-0-project
追加
成人麻疹
麻疹は通常、,小児期(1〜5歳)に好発しますが、免疫のない成人は当然容易に罹患します。
成人麻疹とは18歳以上の成人にみられる急性麻疹ウイルス感染症と定義されるわけですが.
一般的に種々の合併症を併発して重症化しやすく、時には死亡するケースもあり、臨床上の問題となっています。
近年成人麻疹が増加していて感染症発生動向調査の対象疾患に加えられ実態把握がなされようとしています。
成人では、これまで成人麻疹の発生がほとんどみられなかったために麻疹が疑われない場合も多いようです。
わが国の麻疹ワクチンの接種率(接種率=接種実施者/接種対象者)は74〜75%程度とされ麻疹の大流行は
起こらなくなったとはいえ、一方で、自然感染の機会が減ったため、小学校入学時での未接種・未罹患児は増加し
ており今後,年長児や成人における感受性者が増加する可能性が高いとされています。
さらに、ワクチンを接種してあっても獲得した免疫が時間が経つと低下する現象が起こり、
接種後8年以降における感染・発症(secondaryvatinefailure:SVF)も新たな問題となっています。.
実際に、ワクチン接種歴のある成人でも感染して重篤な症状を呈する例が報告されています(愛媛県では
昨年から今年にかけ、新居浜を中心に東中予で発生しています)。このことは、従来言われていたように、
1回のワクチンを接種すれば一生かからないというわけではないということを示しています。
事実、欧米ではすでに複数回接種が行われています。
03-11-28朝日新聞がトップで麻疹の記事を載せました。
http://www.asahi.com/national/update/1128/006.html
トップのフレーズは「はしか、予防接種後にも発症 5年間に31自治体で確認」です。
いかにも麻疹ワクチンは無効!と読者に勘違いさせそうなセンセーショナルな扱いですが、上記で示したとおり、
すでに以前から分かっていること、小児科では再三警告してきたことです。
記事の中で重要な点をピックすると、「専門家が一様に指摘するのは、流行状況の変化だ。以前ならワクチンで
得られる抗体が減衰する前にはしかの流行に遭遇して抗体が再び上昇する「ブースター効果」が期待できたが、
流行が減ったために、この効果が得られにくくなったというのだ。 」まずこの部分です。ワクチン接種の効果で、
たしかに大きな流行はなくなった、その影響として終生免疫ができるといわれてきたワクチンの効果が短くなった
その事実をはしかワクチンメーカーは「早ければ5〜6年で効果が落ちてしまう」結果ワクチンをしたのに
「感染・発症するケースが増えている可能性は否定できない」と、率直に認めているわけです。
情けないのは厚労省で、接種率を1歳代前半で95%以上にあげ、流行を抑えられるといまだに考えていること、
そして、「これほど多いとは知らなかった。問題が現実的に突きつけられていると認識しなければいけない」と
全く把握していないことを認めていることです。 (30 NOV 03)
続く