1 定義
急性発作を伴う慢性に経過する呼気性呼吸困難を主症状とする呼吸器疾患、というと難しくきこえますが
かぜをひいたり、季節や温度の変化、煙やほこり、激しい運動などをきっかけにゼイゼイしやすい子と
思っていただければいいでしょう。
2 ゼイゼイする子はすべて喘息、あるいは将来喘息になるのか?
こういう項目をもうけたのは、この段階で混乱があるのです。乳児期、ちょっとしたかぜに伴い
ゼイゼイする子は昔からかなり多く、喘息様、あるいは喘息性気管支炎と呼ばれ小児喘息とは
別と考えられていました。現在では、こうした子をすべて喘息予備軍と考え、早期に予防的治療
を勧める傾向があります。私は、乳児はもともと気道の機能は未発達ですし、痰を出す力も意志もない
さらにウイルス性の上気道炎にもっとも頻繁にかかりやすい時期でもあるわけで、しょっちゅうゼイゼイ
していても不思議ではないと思っています。まして、その子たちがすべて喘息になるとしたら、
統計的にもとても勘定が合わない。そして、喘息の可能性がある、ほっとくと喘息になるという指導は
根拠に乏しく、いたずらにお母さんたちに不安を与え医原性ともいえる心因性喘息の素因を作ってしまう
おそれがあります。もともとアレルギー素因のある、一部の子だけが喘息になると考えてください。
3 重症度と鑑別診断
喘鳴のある子供さんで喘息を心配しなくてはならない場合は、遺伝素因が明らかな場合(両親、兄弟
にアトピー性皮膚炎や、喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症がある)と、一度でも大発作を起こした場合です。
ただ、ひどい呼吸困難を起こしても、喉頭炎や、RSウイルスなどによる細気管支炎などによる場合とは
はっきり区別しなくてはなりません。下表の1,2の場合、遺伝的素因が明確でなければ私はできるだけ喘息
という言葉は使いません。逆に1度でも3,4の状態を経験した子は、喘息としてきちんとした管理が必要です。
症状 | 生活 | コメント | ||
1 | 小発作 | 軽い喘鳴、陥没呼吸 | 哺乳、睡眠などの障害はない | 内服薬のみで軽快 |
2 | 中発作 | 喘鳴、陥没呼吸 | 哺乳、睡眠、機嫌などが損なわれる | 内服薬に加え、吸入などの処置 |
3 | 大発作 | 強い喘鳴、陥没呼吸のため横になれなかったり、チアノーゼを伴うこともある | 上記に加え、ほとんど抱いていないとだめな状態。咳き込みに伴って嘔吐も | 点滴、さらに入院が必要になることが多い |
4 | 呼吸不全 | 上記に加え、意識障害を伴う | かえって喘鳴などは消失し、ぐったりしてしまう | 入院を要し、呼吸管理 |
4 予防と治療 (個々の問題に関しては、ここをクリックして質問箱からどうぞ)
発作の予防 原因の除去、誘因からの回避
明らかな原因物質がわかっている場合(例えばソバなど)除去によって発作を回避できますが
そうした単一のアレルゲンで起きる例はむしろ例外で、感染、環境の変化、心身の疲労
発作への不安など誘因の方が重要な役割を占めます。
心身の鍛練
水泳に代表される屋外での運動、乾布、冷水摩擦など、発作のない時期には積極的に
体を鍛え、自分自身で治していこうという姿勢を確立させます。
現在は、ややもすると検査、薬、吸入、食事制限など依存型の治療に偏りがちです。
薬物療法
抗アレルギー剤
DSCG(インタール)をはじめおおくの種類が使われており、喘息治療のベース的薬剤と
位置づけられています。体質改善の薬と説明されることもあり、必ずしも即効性はなく
そういう意味では漢方薬もこの範疇にはいるかもしれません。
小児喘息の長期管理に関する薬物療法プランでも最軽症から適応となっています。
有効性に関しては、長く使ってみないと何ともいえないし、もし使ってなかったら
どうかということは試しようもなく副作用が少ないというだけで気休め的でもあるように
思えます。それも治療効果といえばそのとうりですし。ただ、軽症の子供さんに
一律に投与する必要性は感じません。
気管支拡張剤
経口剤、吸入剤として広く使われています。即効性があり小発作から使用されます。
ぜいぜいしている状態での処方にはほとんど他の薬剤とともに入っているとおっもって
間違いありません。
注意すべき点として、携帯用吸入器での使用があります。たしかにJGLでもGINAでも
発作治療の第一選択剤と位置づけられていますが、安易に家族にわたしていいか、
私は疑問視しています。携帯用吸入器にはもちろん使用法が明記されているのですが、
必ずと言っていいほど必要以上に頻用され、過量投与に陥り、依存性があり
結果的に治療の遅れ、過剰投薬による副作用が心配されるのです。
気道過敏性の昂進、喘息死との関連についても議論は決着していません。
とりわけ、年長児に管理を任すのはきわめて危険です。
私のクリニックでは旅行用など、短期使用以外処方しません。
発作の治療 (個々の問題に関しては、ここをクリックして質問箱からどうぞ)
小発作 上記発作の程度を参照し、落ち着いて家庭で管理可能。
常備の薬剤があればそれを投与するとともに、水分の補給
安静、腹式呼吸などで改善するし、自分の力で治せるという自信をつけさせてやる
ことは、安易に病院を受診したり、吸入器に頼るよりずっと重要なことです。
まわりの人も不安をかき立てるのではなく、励ましてやる姿勢を持ってあたりましょう。
中発作 経口薬、吸入処置程度で改善しますが、場合によっては大発作へ移行することもあり
注意深く経過を見る必要があります。各自の発作のタイプ、天候、感染合併の有無などを
考慮して治療にあたりましょう。
大発作 外来での吸入、点滴、さらには入院しての呼吸管理を要する
場合があり、躊躇せず対応可能な病院を受診すること!
トピックス(読めば読むほど??)Web上で目についた記事をピックアップします。
2003.5.7 0歳児保育の喘息予防効果、母親の喘息の有無に依存−−米調査
両親のどちらかがアレルギー体質の子供500人を対象とした米国の調査で、0歳児保育を受けていた子供では、6歳になった時に喘息にかかっている確率が低いことがわかった。ただし、母親が喘息の場合は、こうした“予防効果”は認められなかったという。研究結果は、米国胸部学会(ATS)の学術誌であるAmerican Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)誌5月1日号に掲載された。
喘息などのアレルギー性疾患は、免疫系のバランスが崩れることで起こる。こうした免疫力は遺伝的な素因のほか、1歳までの環境に影響されると考えられている。最近は、この時期にダニやほこりなどの抗原に触れたり、他の子供から風邪などの感染症をうつされたりすることで免疫力が鍛えられるとの説が有力で、「ペットを飼っていると喘息にかかりにくい」(関連トピックス参照)、「兄弟では下の子供の方が喘息にかかりにくい」などの調査結果が報告されている。
米国Brigham and Women's病院Channing研究室のJuan C. Celedon氏らは、0歳児保育を受けた子供では、アトピー性疾患や喘息にかかりにくいとの報告があることに注目。両親のどちらかにアレルギー性疾患がある、つまりアレルギー体質を遺伝的に受け継いでいると考えられる子供でも、同様の「予防効果」がみられるかを調べた。
調査の対象は、両親のどちらかが喘息や花粉症などのアレルギー疾患にかかっている子供498人。うち0歳児保育を受けた子供は238人(47.8%)で、その半数(109人)は生後6カ月までに保育所に預けられていた。
6歳まで追跡できた453人のうち38人が喘息にかかったが、0歳児保育を受けていた子供では、喘息発症率が7割低い計算になることが判明。アトピー性皮膚炎の発症率も7割低く、遺伝的にアレルギー素因を持つ子供でも、0歳児保育にアレルギー性疾患の予防効果があることが明らかになった。
ところが、母親に喘息がある子供(131人)では、0歳児保育を受けていても喘息の発症率は下がらず、むしろ高くなった。なお、父親や母親の喘息の有無と、子供が喘息にかかるかどうかには、特に関連がみられなかった。
以上から研究グループは、1.アレルギー体質の両親から生まれた子供でも、0歳児保育には喘息などアレルギー性疾患の予防効果がある、2.この予防効果は、母親に喘息がある場合にはみられなくなる−−と結論付けている。
この論文のタイトルは、「Day Care Attendance in Early Life, Maternal History of Asthma, and Asthma at the Age of 6 Years」。
■ 関連トピックス ■
◆ 2002.8.29 ペットがアトピーを防ぐ? 米国で調査結果まとまる