日本人がいかに薬好きといっても、こどもに薬を飲ませるのは大変なこと、
ここでは薬の飲ませ方や、小児科でよく使われる薬についてのQ&Aを公開します。
飲ませ方、こつと考え方
大原則は、薬の袋や、タグに書いてあるとおりに!です。が
乳幼児では、そう簡単にはいかないですね。そこで、多少は目をつぶってもいいことを書きます。
生まれて初めて薬を飲ませるとき、けっして緊張しないように、赤ちゃんにも雰囲気が伝わります。
リラックスして、スプーンやスポイトでゆっくり流し込んでください。
あわてず、なめさせるようにでいいのです。
1歳を過ぎて、薬とわかって拒否する場合、十分理解させながら、時によっては
叱ってでも飲まさなくてはなりません。わざと吐き出したら時間をおかずもう一回分のませます。
しつけの基本と思って、けっしてあきらめたり、譲歩してはだめです。
服用間隔ですが、極端に短くしない限り、多少ずれてもかまいません。
時間だからといって、やっと寝付いた子を起こしてまで飲まさなくていいのです。
2−3時間ずれてもかまいません。ただ、一日3回なら24時間で3回と考えてください。
減らしたり増やしたりは困ります。もちろん一度に2回分飲ましたりしないように。
あわてて夜中に高熱で来院されせっかく処方したのに、食後だと思って次の日の朝から
飲ませたという例がありました。処方されたその時点から服用させていいのです。
食事との関係ですが、多くの薬は食後となっていますが、乳幼児の場合無視してかまいません。
おなかいっぱいになると、飲まなかったり、せっかく飲んでも吐いてしまっては意味がありません。
食間と書いてあったから、食事をしながら飲んだというおばあちゃんの話は、もう笑い話にならない
くらい有名ですが、乳幼児の場合、食間くらいの方が飲ませやすいですね。
基本的に、何に混ぜて飲ませてもかまいません。
乳幼児の場合、とにかく飲ませることが最優先ですから。
できればそのまま、粉薬などは、少量のお水に溶いて飲ませます。練って口の奥に塗りつけ、
ジュースなどを飲ませてもかまいません。苦くないドライシロップは、アイスクリームなどに
トッピングしてもいいでしょう。
たくさんのミルクなどに混ぜると残してしまい、ミルクそのものを敬遠しだすことがあります。
チョコレートや、ココア味が以外と薬の苦みを消すといわれています。
授乳中の薬剤服用について
一般論として、多くの薬の説明文書では、約3/4の薬剤で投与中は授乳を避けさせる、とあります。
理由として、ヒト母乳中へ移行するので、動物乳汁中へ移行するので、母乳中へ移行するとの報告が
あるので、安全性が確立していないのでといったきわめて曖昧な表現がなされています。
特に我が国ではなぜか海外に較べ授乳禁止が多いのですがなぜでしょう。
よくわかりませんが、厚生行政の逃げ腰姿勢のせいではないでしょうか。
海外では重篤な有害反応を起こす可能性のある一部の薬剤のみ禁止となっています。
主なものは、抗ガン剤、免疫抑制剤、甲状腺ホルモン剤、抗凝血剤、大量のアルコール、
大量のアスピリン、放射性医薬品、そして麻薬くらいです。
母乳は乳児にとって最良の栄養源ですし、哺乳は母子間の良好な関係成立に重要な役割を果たしている
ことは周知のこと、そして、母体の健康はその基盤です。安易な服薬禁止、授乳中止指導は避けて
欲しいものです。
馬場一雄日本大学名誉教授も「子育ての医学」のなかで、母乳中にでる薬剤はきわめて少量で、
あかちゃんに影響を与えることは例外的な薬剤以外、心配ないと書かれていますし、多くの小児科医は
そう思っています。おかあさんのかぜなどは、早く薬を飲んで、早く元気になってもらわないと
あかちゃんの風邪もなかなか治らないということになります。
宣伝するつもりはありませんが、 最近こういうものが発売されました。 カプセルや、錠剤、もちろん粉薬も りんご味、ノンシュガー、低カロリーの ゼリーに閉じこめて、ごっくんしてしまおうという ことだそうで、さしずめ飲むオブラート、 なかなか考えたものだと感心していますが、 うまく飲めるものか、まだ試していません。 |
「飲むオブラート」は、 うちではもう、それなしには薬は飲ませられません。 とっても重宝しています。 以上、メールで感想をいただきました。困っている方、参考になさってください。 |
カロナールシロップ 小児用解熱剤 (アセトアミノフェン) calonal
小児科領域で使われる経口用解熱剤は、従来から即効性のアスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛剤が
ありましたが、それぞれいろいろ副作用もあり、現在ではアセトアミノフェンがもっとも無難であろう
ということになっています。そもそも、解熱剤はできるだけ使うべきではないのですが、
お母さんたちの最も心配なことは高い熱、それを速やかに下げて欲しいというのが第一の希望です。
となると、どうしても即効性のものを使いたくなるというジレンマがあります。
けれども、小児科医は、下がりすぎてショックを起こされることはもちろんのこと、一見元気になって
遊びまわってかえってこじらせてしまう、場合によっては、親の都合で無理やり坐薬を入れ
保育園へ行かせてしまう、といった使い方をされるのを最も危惧しています。
そういう意味で、最近発売された(2000年5月)比較的穏やかな解熱作用で、唯一の飲みやすい
シロップであるこの製剤は今後主流になると思われます。
とはいえ、1日二回を限度とし、間隔は6時間はあけて使いましょう。過量投与は危険です。
インフルエンザ発症時の解熱剤投与に関する件 日本小児科学会はインフルエンザ発症時の解熱剤 投与に関しジクロフェナクナトリウム(ボルタレン他)と メフェナム酸(ボンタール他)の使用を慎重にするよう もとめ、アセトアミノフェンの使用を推奨しています。 なお厚生省は、脳炎、脳症を発症した患者への ジクロフェナクナトリウム製剤の使用を「禁忌」扱いと することを決めました。 これは、脳症患者の65%は解熱剤を使用しており、そのうち、 解熱効果が高いメフェナム酸(商品名ポンタールなど)を使った 患者の死亡率は67%、ジクロフェナクナトリウム(同ボルタレンなど) では52%。解熱剤を使わなかった患者の死亡率は25%。という データに基づいています。これを統計学的に処理すると、死亡の 危険度は、使わなかった場合に比べ、それぞれ4・6倍、3・1倍 高かったというわけ。 ただ、これら2種類の薬は、高熱時に使わざるを得ない場合も 現場ではあり、熱が高いと死亡率も高く、このデータだけで解熱剤が 脳症の犯人とは言い切れません、が、現段階では、これらの薬は できれば使わない方がいいということです。 |
ジスロマック(細粒、カプセル) マクロライド系抗生物質 (AZM)
もっとも新しく発売された抗生物質です。特徴は、一日1回服用で、3日しか投与できません。
というより、3日投与で、7日間効果が持続するという画期的な薬なのです。
とりわけ、小児にはありがたいのですが、従来なかった投与法ですから4日以降に
他の医療機関に行って、抗生物質が投与されると、実質重複することになります。
何月何日にこの薬を投与しましたというメモをお渡ししていますから、忘れず持っておきましょう。
マクロライド系抗生物質は、マイコプラズマなど、他の系統の抗生物質が効きにくい下気道炎に
よく効きますので、小児科でもよく使いますが、喘息の子供さんが服用しているテオフィリンに
影響を与えるため使いにくかったのですが、ジスロマックは相互作用が少ないとされ、ちょっと安心です。
ただ、どのマクロライドでもいっしょですが、ジュースやスポーツドリンクに混ぜると大変苦くなります。
牛乳か、アイスクリーム、お茶で飲ませてください。
シンメトレル(錠、細粒) 抗ウィルス剤
この薬は1960年代に抗ウイルス薬として開発されましたが、我が国で実際に、A型インフルエンザ
ウイルス感染症に適用が認められたのは1998年からです。使用にあたっての注意点として、
症状発現後48時間以内に投与する必要があり、それを過ぎて投与してもあまり効果がありません。
さらに本剤には中枢神経系への作用があり、特に小児で興奮、意味のないことを言う、フラフラ感、、
不眠などの副作用が約2割に報告されています。副作用は血中濃度が高まるとおきやすいのですが、
わたしの経験では、副作用を軽減するため、少な目に使っても効果は十分のように思えます。
本剤比較的低価格なので、ワクチンができなかった方で、受験などを控えている場合、
予防的に使う方法もありますが、長期予防的投与は耐性ウイルスを誘導しやすく安易な使用は
避けるべきでしょう。耐性株が家族に感染した例もすでに報告されています。
いずれにせよ、ワクチン接種が第一と考えましょう。
今シーズンからA、B両型のインフルエンザウイルスに有効なザナミビルが発売されます。
ゾビラックス(顆粒、錠) 抗ウィルス剤
単純ヘルペスウイルス及び水痘・帯状疱疹ウイルスに起因する感染症に使用されます。
つまり、小児科領域では主として水痘の発症予防、軽症化に使用されます。
この薬は、ヘルペス群ウイルスが感染して細胞内に入ると、ウイルスのDNA合成を阻害することによって、
直接ウィルスをやっつけるという画期的な薬剤です。
発症して2−3日以内に使用すると、かなり軽く済みますし、水痘の子と接触があって、
やはり2−3日以内に使用すると発症を阻止できます。1日4回5日間投与します。
ただ、この場合、抗体が十分できたかどうか明確ではありませんので、
後日抗体検査をしておいた方が無難です。年長、大人になってかかったら重症化するからです。
もちろん、予防は早めにワクチンをしておくことです。
点滴静注用、軟膏、眼軟膏もあります。
ダイアップ坐剤 小児用抗けいれん剤 (ジアゼパム)diapp
乳幼児は高熱とともにけいれんを起こすことがあります。一度けいれんを起こした子は、繰り返しやすいし、
その兄弟も同様の傾向を持ちます。単純なタイプの熱性けいれんは、それ自体心配することはないのですが
それでも、度重なると好ましくありません。で、その予防に使われるのが、この坐薬で、坐薬にしたのは
その長所である即効性と簡便性、保存性を生かしたかったからでしょう。
ということで、高熱になってからあわてて入れても間に合いません。かぜ気味だな、元気がないなと思ったら
早く熱を測って、37,5°くらいで、もう入れなくてはいけません。ですから、解熱剤より早く使うこと、
解熱剤の坐薬と併用する際は、30分くらい間隔をあけてください。同時に使うと、この坐薬の吸収が
遅れるといわれています。とりあえず1回入れて、なお38度以上が続く場合、8時間後に追加するのですが、
熱の原因をチェックするために、それまでに病院へ行くべきです。あくまで、病気そのものを治す薬では
ありませんから。
年齢(体重)に応じて3種類(4,6,10)ありますから、確認しておくこと、同じ成分でシロップ剤もあります。
タミフルカプセル75 経口抗インフルエンザウイルス剤tami
A型インフルエンザウイルスには、すでにシンメトレルという製剤が発売され、当クリニックでも
多数の使用経験がありますが、タミフルは2001/2に新発売となった、
A型およびB型インフルエンザウイルスに有効な世界初の経口抗インフルエンザウイルス剤です。
インフルエンザウイルスの遊離、増殖を促進するノイラミニダーゼを選択的に阻害することにより
ウイルスの増殖を抑制するといわれています。
発病48時間以内に服用することで、各主要症状は50%ちかく軽減され、罹病期間も
25%短縮されるそうです。シンメトレルに比べ、 B型にも効き、副作用も少なく、耐性ウィルスの出現も
少ない様で、もしかかってしまった場合、大きな武器になりそうです。
ただし、カプセル剤のみですし、使えるのは大人だけとなっていますので(国内で使用経験がないという理由、
海外ではすでにドライパウダーが使われていますので、来年には使えるかも)、小児科としては、
年長児か、家族の方に早めに服用していただき、乳幼児への影響を軽くするという使い方しかできません。
同時に、同じ系統の薬剤、リレンザも発売されますが、これはパウダーを吸い込むという服用方法、
いずれにせよ、乳幼児には、ちょっと使えません。ということで、やはり、ワクチンが第一選択です。
テオドール 気管支拡張剤 (テオフィリン徐放製剤)
主として気管支喘息の予防に用いられます。気管支拡張以外の作用も知られるようになり、
抗アレルギー剤のみでコントロールしにくい場合に、併用します。
注意を要する点として、血中濃度のコントロールが難しいこと、特に過量になると
はっきりと血中濃度に応じて副作用が出ますので、けっして多めに飲んだりしないこと。
また、適当に飲んでも血中濃度は上昇せず、効果がありません。round the clock(RTC)療法といって、
時間を決めて一定に内服するのがこつです。剤型としては、錠剤、シロップがあり、
急性発作時には、注射用製剤を用います。
ナウゼリン(ドライシロップ、錠、坐薬) 消化管運動改善剤 nauze
消化管運動改善剤となっていますが、「吐き気止め」としておなじみです。
従来よく使われた、吐き気止めは、時に副作用として錐体外路症状(非常に奇妙な不随意運動、筋肉の硬直、
ふるえ、目が測方を向く)が出て嫌な思いをしましたが、この薬剤は全くないわけではなく頻度がぐっと減りました。
ということで、感染性胃腸炎や、嘔吐下痢症、周期性嘔吐症などで、吐き気が強く薬も飲めない状態の時
坐薬は有用です。このおかげで、点滴をしなくてすむケースがぐっと増えました。
坐薬は年齢に応じ、10,30,60とありますので、過量投与のないように気をつけて使いましょう。
ホクナリン(テープ) 経皮吸収型気管支拡張剤 HC780-2
昔からあった薬ですが、テープになったのがみそ。痛み止めなどではおなじみですが
皮膚から吸収され、血管に入り気管支を拡張させる作用を持っています。
喘息や、痰の絡んだ気管支炎に使われます。これも1日1回貼ればじょじょに効きはじめ
10時間後くらいに血中濃度が一番高くなります。
夜間発作が起きやすいので、夕方貼っておくと良いでしょう。
もう一つのメリットは、経口薬の量が減らせ、薬嫌いのお子さんにはちょっとでも楽ですね。
胸か、背中か、上腕に貼るよう指示されています。心配していましたが意外とはがれにくく
保存も利きますから、応急用にも使えてなかなか便利な薬剤です。
年齢に応じて、0,5mg、1mg、2mgの3種類が用意されています。
ただ、経口薬に同じ成分の薬が入っていることがありますから、よく確かめて使ってください。
ミノマイシン(顆粒、カプセル、錠) テトラサイクリン系抗生物質 mino
大変古い歴史のある薬ですが、最もよく使われる系統の抗生物質が効きにくいタイプの
感染症に威力を発揮します。ただし、このクスリには大きな副作用があります。
注意書をそのまま引用すると、「小児(特に8歳未満の小児)に投与した場合、歯牙の着色・エナメル質
形成不全、また、一過性の骨発育不全を起こすことがあるので、他の薬剤が使用できないか、
無効の場合のみ適応を考慮すること。」とあり、妊婦、妊娠している可能性のある婦人への投与も
同様の理由で制限されています。これは、小児科以外では意外と考慮されていないことが多く、
処方された場合、薬剤師などに確認された方がいいと思います。わたしは少なくとも5歳以下の子には、
よほどのことがない限り(肺炎などで他の薬剤が効かない)使用しません。
1日1〜2回の投与になります。
ロペミン(小児用、細粒、カプセル) 止痢剤 lope
腸管に選択的に作用し、蠕動を抑制するとともに、腸管における水分・電解質の分泌を抑制、吸収を促進し
速やかに下痢を改善します。従来、乳幼児の下痢症に対しての薬は、飲みにくかつ、量の多い
散剤しかありませんでした。が、この薬は、まずまず飲みやすく量も少なくて済み、かなり、早く効果がでます。
ただ、あくまで対症療法剤ですから、原因が明らかな場合、きちんとそちらの治療も必要です。
それから、食事の注意をしっかりしてください。下痢をしたら、原則として便より軟らかいもののみ!、
冷たい飲み物、甘いものは避けましょう。若いお母さんたちは食事に無関心すぎます。
さらに、急いで下痢を止めようとして、薬を使いすぎると、逆に腸が動かなくなってしまいます。
あせらず、ゆっくり治す気持ちで臨みましょう。