虐待予防 外来小児科医にできること abuse  

                                  愛媛県小児科医会虐待予防パンフレット作成委員会

はじめに

 虐待の定義、基本知識が浸透し、それに対処すべき各方面での対応が進みつつある今、虐待に至る状況の把握と、その予知、

いわば虐待の芽を摘む努力が求められている。なぜなら、いったんおきてしまった虐待への事後処置は、きわめて困難であることが

あらためてわかってきたからである。

取り組む姿勢

 第二回「健やか親子21」検討会における「育児不安の解消と子供の心の安らかな成長の促進」と題された資料は、

われわれにできる対応について貴重な示唆を与えてくれる。そこで述べられている基本的な方向性を以下に抜粋しておく。

・ 子育ては、日常的なことであり、育児不安の出現は、ほんの些細なことから始まる。このような目先のちょっとした

 不安を解決、納得させ、育児を楽しくしていく方向に転換させることが基本である。

・ 育児の方法は千差万別で、マニュアルによる画一的な支援を行うことは困難なものである。(以下略)

・ 育児不安には、子育ての中で起こる 一般的な不安、第三者から言われたことに対する不安、子どものことを知らないで

 自分の思うように育たないための不安、(中略)これらの各種の不安に適切に対応し親が自信を持って子育てを楽しむようにすることが

 本来の支援と言える。

・ 特に、親子に直接ふれる機会の多い、身近な医師、保健婦、保育士等の人間的な温かい心は重要で、これら専門職 の

ほんの一言が親を勇気づけるし子育てを楽にしていくことが指摘されている。

外来における具体的対応

#できるかぎりの周辺情報を得ること

・ 保健証からは、その汚れぐあい、頻繁な複数医療機関への受診状況などがうかがえ、過剰な不安、医療への不信、

 依存性を知ることができる。

・ 母子手帳は、親の年齢、妊娠時の職業、妊娠出産歴上のリスクはもちろん、健診等への参加の有無、

 予防接種を受けさせているかなど、母親の養育態度について重要な情報を与えてくれる。余白への神経質なほどの書き込み、

 あるいはいっさい母親本人の記載のないものなどは、適切でない養育姿勢を感じさせる。

・ 昼間、夜間の保育者を知ることによって育児の連携が密であるか、全くとれていないかがわかる。

 連携がうまくいっていないことは、養育の不適切さにつながるし、家族内の不和をもうかがわせる。あるいは、母子のみによる

 密室状態での育児状況があるかもしれない。

#子供の一般状態、態度の把握

・ 不審な外傷を小児科外来で目にすることは少ない。むしろ、体重増加の遅延、低身長などに気を配らなくてはならない。

 衣服の汚れ、不潔な爪、お尻の状態、診察前に食べ物を口にしていること、持たせている玩具などにも注意を払わなければならない。

・ 一般状態と、親の訴えの食い違いは誤診を防ぐ意味でも気にとめる必要がある。親の養育態度は、その仕草や抱き方にも現れる。

 処置時に泣きわめいても、離れて無感情に立ちつくす親、慣れて良いはずの月齢で、ぎこちない抱き方をする親は

 普段からそうしている可能性が高い。

#些細な事柄を聞き出して

・ 一般診療で出てこない事柄について 質問してみる。よく寝るか?夜泣きは?母乳のでぐあいはどうか?吐くことはないか?

 便の状態、視力、聴力、薬は上手に飲めているか?排尿便の 自立、好き嫌い、など本来の診療目的から離れた質問から、

 親の悩みを聞き出すことができる。じつは、こうした些細な問題は、診察室で相談してはいけないと思っている親は少なくなく、

 どこで聞いていいかわからず悩んでいる。

虐待の芽を摘む

 外来小児科医が第一子を診るのは3−4カ月健診で、であることが多いが、妊娠中、産褥、最初の1−2カ月のトラブルからすでに

虐待の危険性は高まっている。虐待は、早期の育児上の些細なつまづきから起きる。まず、思った通りに育児が進まない、

生活パターンの変化、外へ連れ出す機会も少なくふたりっきりの状態などからの孤独感、疲労がピークに達しようとしている。

そういう意味で、3−4カ月健診はきわめて重要な役割を担っている。ここでの対応は、決して批判、比較をしてはならないし、

むやみに子供の身体的、精神的発達異常を示唆してはならない。とりわけ、不慣れな保健婦、看護婦の不用意な発言は

母親を不安に陥れることがある。十分な連携をとって、疾患等「疑い」のあるケースは親にわからないかたちで医師に伝えるなど

きめ細かな配慮が欲しい。母子手帳に標準体重をわざわざ書き込むなどすべきではない。

 一般外来で3−4カ月以下の子供が連れてこられた場合、その訴えは多くが些細な事柄であるが、連れてくること自体

大変な躊躇の末のことであるから、決して通り一遍の態度で接してはならない。とりわけ、新生児などは訴えの内容如何を問わず、

別の部屋で待たせるよう指導しておくべきである。多くは、新生児ざそうや、臍ヘルニア、遷延性黄疸、あるいは溢乳、

便の停滞、色の異常、 頭のかたち等々、初歩的育児上の心配事にすぎないが、十分な説明と同時に、先に述べた

関連しない質問などを交え、不安を除去し、小児科医がそうした問題に答える役割を担っていることを知らせておくべきであろう。

 時間外の電話にも、積極的に出るべきだ。携帯に転送しておけば、とりあえず簡単な指示は出せるし、

最近の母親は番号通知をしてくるケースが多いので、すぐに出られない状況でもあらためてこちらからかけ直すと、お互いに安心できる。

小さな努力が、虐待への道を遮断できるかもしれないのである。(sept. 00)